神社本庁

日本人の霊魂観―靖國神社信仰の底流―

日本人の暮らしとお盆・お正月・ご先祖さま

 「お盆」と「お正月」は、日本人にとって、依然として特別な意義を有しています。この期間の前後には、この行事を故郷で迎える人々の、日本列島を縦断する「民族大移動」が恒例となっています。

 民俗学者の柳田國男らによれば、そもそも「お正月」は、本来、新年に際して祖霊を迎えるための年始の行事でした。お盆も、やはり来訪した祖霊を饗応する慰霊の行事であるとされています。いずれの行事も、明治維新以降の文明化・世俗化の進展にもかかわらず、日本人の心の奥底に潜んでいる特有の霊魂観、祖先観と無縁ではありません。

 このように、先祖の霊を、神としてあがめ、あるいは仏として尊ぶ姿勢は(日本の一般家庭では神棚と仏壇を共に祀る風習が見られます)、日本のみならず、東アジア一帯にも共通する宗教意識といっていいのかもしれません。これによれば、死後一定期間を経て、祖霊(カミあるいはホトケ)に昇華した先祖の霊は、この国土に永久にとどまって、子孫の暮らしを見守ってゆくものと信ぜられてきました。

 なつかしい死者たちが、この世のどこかからか子孫たちを見守り、時には導いてくれる。これこそが、日本人の内面に今なお影を投じている祖先観であり、祖霊崇拝のスタイルであるということができるのではないでしょうか。日本人の死者に対する思いは、故人の誕生日よりも命日を重んずる風習の中に、いまなお生き続けているのです。

 戦没者のみたまを併せ祀る靖國神社ご創建以来の底流にも、同様に、古来日本人が培ってきた独特の祖先観・祖霊観が流れています。ここにこそ、靖國神社に託された信仰を内側から理解する、大切な鍵があるといえましょう。