先祖のおまつり

「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉どおり、彼岸は季節の変わり目であると同時に、また、祖先をおまつりする大切な行事でもあります。
彼岸は、春分の日(3月21日頃)と秋分の日(9月23日頃)をはさんだ前後の3日間ずつ、計7日間のことをいいます。
また、それぞれを春彼岸、秋彼岸といい、彼岸の最初の日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け」、春分・秋分の日を「彼岸の中日」といいます。

「彼岸」には、お墓まいりをする習慣があります。
祖先の霊を家に迎えるお盆とは違って、祖先に「会いにゆく」行事としての色彩が濃いようです。
彼岸は日本にしかない行事で、豊作に欠かすことのできない太陽をおまつりして祖霊の加護を祈る、古くからの儀礼と結びついたものと言われています。
彼岸には、「おはぎ」や「ぼたもち」を供え、お下がりとして食します。
「おはぎ(お萩)」は萩の餅の略称、「ぼたもち」は牡丹餅で、いずれも同じものですが、春の牡丹、秋の萩と季節の花にたとえて呼ぶところに、日本人らしい感性がうかがえます。

春分・秋分の日は、いずれも国民の祝日で、春分の日は「自然をたたえ、生物をいつくしむ」、「秋分の日」は「祖先をうやまい、亡くなった人々をしのぶ」とされていますが、かつては春季皇霊祭(しゅんきこうれいさい)・秋季皇霊祭(しゅうきこうれいさい)という祭日でした。
今でも宮中では春季皇霊祭・秋季皇霊祭が行われ、神武天皇(じんむてんのう)を始め歴代天皇・皇族の御霊がおまつりされます。

そして、春分・秋分の日は天文学的には春分点という太陽が黄経(こうけい)0度、秋分点という黄経180度を通過する日のことです。
太陽が真東から昇り、真西に沈むことから、祖先との交流に相応しい日と考えられてきたのでしょう。

お盆は祖先をおまつりする行事で、旧暦7月15日を中心に行われます。
7月13日夕方の迎え火に始まり、7月16日の送り火に終わります。
諸説ありますが、一般にお盆とは「盂蘭盆(うらぼん)」の略と言われています。
盂蘭盆はサンスクリット語で「倒懸(さかさづり)になっているものを救う」という意味があり、あの世で非常な苦しみを受けている死者を供養し救う仏教行事とされています。
しかし、供え物を載せる容器を日本の古語で「ボン」と言ったことから盆になったという説もあり、お盆は日本に古くからあった祖霊祭の名残であろうと考えられています。

関東地方では7月15日に行われることが多いようですが、関西などの西日本では月遅れの8月15日に行うところが多いようです。
「おがら」と呼ばれる麻の茎や麦藁、松の割り木などを焼く迎え火・送り火の風習については、江戸時代に盛んになったと言われています。
また、盆踊りは本来、祖先の霊を慰め送り出すためのもので、あの有名な阿波踊りも盆踊りのひとつです。
お正月やお盆など、祖先の霊は年中何度も子孫のもとを訪れます。
正月棚や盆棚(先祖棚)はその際に祖先を迎える場所で、神棚や御霊舎の原型とも考えられています。