天の岩戸
高く澄み渡った空の上に、高天原(たかまのはら)という神々のお住まいになっているところがありました。
そこには天照大御神(あまてらすおおみかみ)さまという大変尊い神さまがいらっしゃいました。
そこに弟の須佐之男命(すさのおのみこと)という力自慢で、いたずら好きな神さまが訪ねてきました。すると、高天原の田の畔を壊したり、折角掘った溝を埋めたり、天照大御神の神聖な御殿に糞を巻き散らかしたりと悪さをしました。しかし、その度に優しい天照大御神はお叱りになられず「なにか考えがあっての事でしょう」と咎めることはありませんでした。
しかし、ある時、大御神さまが機屋で機(はた)を織らせていると、須佐之男命が機屋の天井に穴をあけ、皮を剥いだ馬をドサッと投げ入れました。すると、驚いた機織女(はたおりめ)は大けがをして死んでしまいました。
日頃やさしい大御神さまも、これには恐れ心を痛めて、天岩屋戸(あめのいわやど)という岩屋に隠れてしまわれたのです。
さぁ大変です。世の中は真っ暗で、ずっと夜になったようです。真っ暗な日が続くと、高天原の秩序は乱れ、様々な災いが起こるようになりました。困りはてた神さまたちは、天安之河原(あめのやすのかわら)に集まり相談をしました。
そこで思金神(おもいかねのかみ)という賢い神さまが一計を案じます。
まず長鳴鳥(ながなきどり)を集めて鳴かせ、夜が明けたかのように演出します。次に、尊い捧げものを揃え、祝詞(のりと)を申し上げ、高貴な方がお出ましになったかのようにしました。
そして天宇受売命(あめのうずめのみこと)という踊りの上手な神さまに、桶の上でトントンと桶を踏み鳴らすように躍らせると、集まった神々は喜び、楽しみ、笑い、歌い始めました。
外が余りにもにぎやかなので、大御神さまは不思議に思われ、岩戸を少し開き「私がここにこもって、世界は真っ暗だと思いますが、なぜみなそんなに楽しんでいるのですか」とたずねられました。すると天宇受売命は「あなたさまより立派な神さまがいらっしゃったので、みな喜び歌いおどっているのですよ」と答えました。その時、準備していた鏡を天照大御神さまの前に差し出すと、大御神さまは不思議に思われもう少し岩戸を開きました。
その時です。
岩戸の陰に隠れていた天手力男神(あめのたぢからおのかみ)は、大御神さまの手を取り、岩戸より引き出しました。 真っ暗だった世の中もみるまに明るくなり、神さまたちも大喜びです。
高天原にもまた平和がもどってきました。
神話 天岩屋戸について
「あめのいわやど」は、「古事記」の中に納められている代表的な神話で、「あめのいわと」とも呼ばれ親しまれています。
この「古事記」は、天武天皇の命により稗田阿礼が暗誦した神代からの伝承を、太安万侶という人物が書き上げ、和銅5年(712)に元明天皇に奉ったものです。
全部で3巻あり、このうち上巻には天地の始めから、神々の出生、神武天皇ご即位の前までが記載されています。
この部分が普通、日本神話と呼ばれているところです。こうした、神話は単なる物語ではなく、私たちの祖先がどのような世界観、人生観をもっていたかを、知ることもできます。私たち日本の文化・伝承の根底にある、いわゆる民族としての心を宿しているのが神話であるといえるでしょう。
用語解説
八百万(やおよろず)の神々の中で最も尊い神さまとされ、皇室の御祖神とされる。
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東征の後、橿原宮にて即位された初代天皇。