実施状況の詳細
[背景]
当社の氏子町内の1つである金屋町は、加賀藩主前田利長公が鋳物師を呼び寄せて開かせた町で、高岡鋳物発祥の地として約400年の歴史があり、この町内の守護神として、「大己貴神、石凝姥神、日本武尊、前田利長命」の四柱が当神社の御祭神として合祀されている。毎年6月19日・20日(利長公のご命日)には「御印祭」が斎行され、四柱の神々が金屋町に渡御され、鋳物師の作業歌であった「弥栄節(やがえぶし)」の町流し(1000人程の参加)が行われるなど、金屋町の祭りとして盛大に行われている。一方で毎年11月8日には鋳物師・金属工業関連業者の祭りである「ふいご祭」も斎行しているが、銅器関係者など10名程度の参列しかなかった。
平成23年には、その金屋町が開町400年を迎えるにあたり、「神社で祭事をしたい」との意向を受けて、境内で鏡を実際に鋳造する「鋳造式」の開催を提案し、11月8日に「ふいご祭~金屋町開町400年祭並びに御神鏡鋳造式~」を斎行した。当日は市長を始めとして約80名の参列と約40名の見学があった。全国のふいご祭では、刀鍛冶が玉鋼を打つ神事が多く見受けられるが、当地の鋳物師は古くから鍋・釜・火鉢などを生産しており、神事では鏡作りの祖である石凝姥神の御神徳を仰ぎ、鏡を鋳造することとした。この祭典に合せて、神事に使う「ふいご」(古式の送風機)と「炉」が金屋町から奉納された。
[振興対策の指定を受けて]
振興対策の指定を受けたことを契機として、鋳造式を毎年開催するための組織である「ふいご講」を新たに設立した。神社側が主導し、伝統産業高岡銅器振興協同組合や高岡銅合金協同組合など金属関係の組合4団体(傘下の企業は約250社)の役員と金屋町自治会(200世帯)の役員をもって構成した。
社殿での祭典では、神職による「火きり」も行い御神火を灯した。祭典終了後に境内に祭場を移し、御神火を種火として炉に火入れを行い、若手鋳物師4名の手により御鏡を鋳造した。24年度は古来の製法である「惣型」で御鏡を鋳造し、25年度は現代の製法である「生型」にて十文字槍(利長公がこの槍を愛用されたとの故実から)を鋳造し、26年度は「なぎなた」の刃(獅子舞に使用する薙刀)を鋳造した。
3ヶ年とも祭典への参列者は80名程であるが、鋳造式の一般見学者は100名を超える。
地元の小学校にも見学を呼びかけ、3校から5学年生計100名が伝統産業の教育の授業の一環として見学にやってくる。鋳造式終了後には、鋳物師の指導のもと、小学生に「ふいご」を触らせ、鋳造作業を体感させている。
高岡銅器の発展に寄与したいとの思いから、祭典当日及び周辺の週末に、社務所内で「銅器作家による作品展」、境内では「高岡銅器掘り出し市」を開催している。
また古くから「ふいご祭」の日に鋳物師がみかんを振舞っていたという故実から、祭典日にはみかん300㎏を振る舞い、また鏡に因んで丸餅の振る舞いも行った。若い年代にもふいご祭に興味を持って貰おうと、地元アイドルグループのミニライブも開催した。
祭典奉仕者を集めての慰労会は、鋳物師にとっての縁起物である秋刀魚を食しながら開催している。
(ふいご祭り・ミニライブ) (鋳造式)
経費
祭典費用は、玉串料と神社からの拠出金で賄っている。
本年度より、各団体よりみかん300㎏などの奉納があり、神社の負担が軽減された。
26年度の会計は次の通り
- 収入
玉串料 520,000円
神社拠出金 288,381円
合計 808,381円 - 支出
人件費 150,000円
神饌費 13,942円
餅 41,400円
直会費 158,280円
直会費 18,144円
祭場設置費 142,560円
鋳造式消耗品費 35,572円
付帯行事費 97,200円
広報費 105,840円
雑費 45,443円
合計 808,381円 - 寄贈
珪砂30㎏/みかん300㎏/地金103㎏/耐火ボード8枚
成果
「鋳造式」を新たに斎行したことで、NHKを始め地元の各民放がニュース映像として流すなどマスコミの取材が多くあり、11月初旬の風物詩として県内で定着しつつある。
鋳造の様子を間近で見学出来ることから、参拝者が急増するとともに、招待している小学校関係者からも、授業の一環として毎年参加したいとの意向を聞いている。
金属関連企業にも、当社が鋳物師の祖を祀っていることが再認知され、事業繁栄の祈願や若手従事者の結婚式なども増えてきている。
HPなどでこの祭典を知った県外企業からの参列も数社あった。
慰労会では、銅器関係者らが交流を深め、企業や年齢を超えて銅器の将来について話し合う場となっており、「ふいご祭」を盛り上げる話も多く聞かれる。
問題点
- 神社が負担する経費が大きいことが問題である。神社主導で始めた「鋳造式」であることや、初期投資に経費が嵩むことなど、ある程度の出費は覚悟していた。神社拠出金は、500,000円(24年度)、400,000円(25年度)、300,000万円(26年度)と減額傾向にあり、数年を目途に黒字化としたい。
- 参列する企業が少ないことが問題である。ふいご講に加盟する団体の所属企業は約250社あるが、大手企業から家族経営までその経営規模に幅があり、現在参列している企業は40社程度である。収入の面からも参列企業を増やすことが当面の課題である。
反省点並びに改善案
石凝姥神(鋳物師の祖/鏡作りの祖)が初めて試された「ふいご」の技を、現代の鋳物師たちが継承している姿を御神前にお見せすること、この技を継承してきた祖先たちへの感謝を新たにすること、金属関連業に従事することの誉れを再認識することを目的として「鋳造式」を斎行してきたが、祭典規模が大きくなるにつれ、興行的な見方をされる場合があり、神社側の教化不足を感じている。
鋳造する鏡を、我が国の最も古い製法の1つである「惣型」で鋳造出来るよう、「ふいご講」に働きかけるとともに、この鋳造式が深い信仰の上に成立していくよう教化を続けていきたい。
同種の計画を持つ神社へのアドバイス
伝統産業をはじめとする地元産業は、かつては神社と深いつながりがあったが、現在ではそのつながりが希薄になってしまった。当神社でも民謡「弥栄節」に「鋳物仕上げて有礒の宮へ」と歌はれているように大正期までは、多くの銅器職人が競うように作品を神社に奉納していたが、戦後そのようなことは一切なくなってしまった。
この祭典を企画した意図の1つとして、神社側から強く働きかけながら、神社と産業業界とのつながりを再構築することを目的としている。併せて地元産業の発展に、神社がどのような形で貢献出来るかを考えながら祭典を行っている。